職業 漫画家

松山せいじ氏のブログより

数日前漫画家アシスタントの方が漫画家になれない憂さ晴らしで放火したということで逮捕された事件がありましたが、
そもそも漫画家になれない事の方が漫画業界にとっては当たり前の事なんですよね。
うちはかつて週刊連載を3年間ほどやっておりましたが今まで30人以上の(ヘルプを含む)漫画家志望者であるアシスタントさんたちと共に原稿を制作してきたわけで、今現在その中で漫画家として大成した方はたった1名しかいませんし漫画家になれる事の方が異常で奇跡だと思いますですよ。


デビューには実力もさる事ながらそのとき雑誌が求めているジャンルだとか、運とか、タイミングにチャンスとか色んな事が交錯するので難しいものです

冷静に考えると漫画家って「文系のスポーツ選手」なんですよね。
野球少年は将来プロ野球選手になる!って思っているし、サッカーも水泳もテニスもなんでもそう。
将来はプロ(もしくは五輪選手)になりたいって思っているんです。
だけど実際それで大成するのは数パーセントなんですよね。自分も野球選手って言ってましたもん。
だからそれはスポーツじゃなくても一緒。漫画家や小説家は文系(だけではないと思いますが表現的に)の夢であってそれを目指す人はやはり多いはずです。
スポーツと同じで雑誌というチームの数が限られてる以上その門戸も狭いはずです。
近年はコミケコミティアなどの同人誌イベントの一般層への浸透で自己表現を外に向かって、それを他人に見てもらい評価してもらえる土壌ができました。
だけどそれは自分のやりたいことをやる、アマチュアの世界の話であってやっぱりプロとアマチュアの間には確実に違いがあるはずです。
いや、もちろんアマチュアでプロより儲けてるって人もいると思いますけど金じゃないと思うので。
それが締め切りだったり編集の存在だったりそういう制約の中で全力を尽くして自己表現ができてこそのプロですよね。(別にそれ以外を否定しているわけではないですよ、自分の表現したいことありきですから)
そこで分かる人には分かるなんていう独りよがりな作品を作ってしまうといつまでもデビューできなかったりするわけでしょう。
やっぱりそこには創作というものだけではなくて「売り手」と「お客」という関係がなりたっているんですよね。
私たち読者はお客、その欲求を充足できる作品を求めていて、そのニーズに対応できている作品こそヒット作だし、それが誰も求めていないと打ち切りになったり。(それがメタな世界で求められることが多くなったことが昨今の同人誌ビジネスの成功ではないんでしょうか)
いわばアルバイトと同じ、求められた仕事ができなければ容赦なく首を切られる、そんな辛い世界です。
漫画家といえば聞こえはいいですけどフリーターといったら聞こえは良くないはず。
よく漫画家の労働条件はかなり良くないと聞きますけど、こう考えるとホントにそう思います。
そのうえ原稿も出版社所有だったり。
つくづく漫画家って大変なお仕事だなと思うと共に、そういう世界を勝ち抜いているからこそ世界に誇れる「日本の漫画」があるんだなとも思いました。
だからこうして普通にそんな作品が読める自分が幸せだなとも。
制度は問題ながら。