ディエンビエンフー (100%コミックス)

ディエンビエンフー
ディエンビエンフー
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西島 大介
角川書店 (2005/08/26)
売り上げランキング: 1,231
おすすめ度の平均: 3.5
4 戦争の中で出逢った少女と少年
3 絵が可愛い

凹村戦争(おうそんせんそう) (Jコレクション)世界の終わりの魔法使い (九龍COMICS)に次ぐ、西島大介作品第三弾。
今回は書き下ろしではなくて、コミック新現実連載作品。
西島節炸裂です。

多くの場合、本当の戦争の話というものは信じてもらえっこない。
すんなりと信じられるような話を聞いたら、眉に唾をつけたほうがいい。
真実というのはそういうものなのだ。
往々にして馬鹿みたいな話が真実であり、まともな話が嘘である。
何故なら本当に信じがたいほどの狂気を信じさせるには
まともな話というものが必要であるからだ。

ティム・オブライエン「本当の戦争の話をしよう」(村上春樹訳)より

こういう前置きをして、巻末のあとがきには、これを逆手にとってありえない嘘ばっかりの話をつくってみよう、そうすればそれは意外とまともな戦争の話になるかもしれないと言っています。
馬鹿みたいな話が真実ならば、真実は馬鹿みたいな話で、それは物語のようなものであり現実であるらしい。
そういうパラドックスを表現しているって、いや、ホントにやられたなぁって感じです。
それは的を射ていて、どんな世界にも「そりゃ無理な話だ」ってのが現実に起こったりしちゃうわけです。
ならそれをもっと激しく崩したらどうだろうと。
実際女の子やティムみたいに1人で赤い彗星くらい活躍しちゃうような兵隊はいないとかとも思えるけど、それは馬鹿みたいな話でもしかしたら真実なんだろう。
鋤が飛んできて首チョンパとかも案外奇跡的に起こるかもしれない。
ヒカルも女の子と出会って、見初められるって。
なんかもうそういう全ての物が奇跡的に絡み合って物語=真実は出来ているのかな。
911だってイラク戦争だってハリケーンカトリーヌだって人智を越えた何かがあるんだろうさ、そこに居合わせた人間だって予想もできないこと、1秒前には生きていた人が突然息もしなくなったり、もしくはそこにあるすべて、なにもなくなっちゃったり。
そういう普段目にしないものたちが西島先生のポップなタッチで描かれたキャラクターによって繰り広げられることがその衝撃を増幅させて、フィクションさ加減が冒頭の一文によってリアルとシンクロしていく。
写実的な絵では目を背けてしまうかもしれない、だけど全くそうはさせない西島絵、それは痛く射抜くんだ、心を。現実から目を背けちゃいけないってね。
そうして僕らの行いとかもっと大局的に見た人間の行いを悔いることもある。
だからこの漫画をどう受け止めるかは読み手に掛かってるんだろうな、ちゃんとエンターテンメントしてるから楽しい!で終わっちゃうかもしれない。でも決して戦争STOPとかだけっていう陳腐なものじゃないよ。


■サイン会配布のアオザイ通信より
ディエンビエンフーは1973年の米軍完全撤退まで描かれる予定、大体全5巻くらいの予定。


西島大介先生のHP:島島