おおきく振りかぶって(4) (アフタヌーンKC)以下続刊

おおきく振りかぶって Vol.4 (4)
ひぐち アサ
講談社 (2005/07/22)
売り上げランキング: 1,013
おすすめ度の平均: 4.88
5 青春 は 始まらないんだあ〜
4 リアリティのある高校野球マンガ
5 キャラクターが素敵。

このキーワードで飛んでくる方が多い分、たぶん目玉なんだろうなぁという今作品。

三星学園中学校で軟式野球のピッチャーをやっていた三橋。
彼は中学時代、祖父が学園の理事長だったため実力ではなく特別扱いでエースをまかされて、そのため野球部の仲間に蔑まれていた。
もう、そんな思いはしたくない。
そう思った三橋は西浦高等学校に転校してくる。
偶然見かけた野球部の練習をみていた三橋だったが野球部監督桃枝に有無を言わさず入部させられる。

「新感覚高校野球漫画」とか「絶対に面白い高校野球漫画」っていう謳い文句が使われるこの作品だけれども、1番私が秀逸だと思うのはそのバランス感覚なんですよ。
よく書評を見ているとこの「おおきく振りかぶって」の理論面が大きく語られるんですがその前の根底にこのバランスがあると思うんです。
従来の作品なら情熱やら友情やらの何か一辺倒でどうにかなるってのがありました。
しかし、「おおきく振りかぶって」の場合たとえば、情熱や努力という面なら三橋が毎日のコントロール練習で手にしたストライクゾーン9分割のコントロールという事実。
友情という面なら阿部が始めは自分のエゴのために三橋に投げさせていたけど、巻数を重ねていくごとにそれは両方通行の信頼へ変わっていっている、っていう事実。それは共に成長という意味も持っているし。
そしてよく言われれる理論。リラックス=集中、そのためのトレーニングなどメンタルな部分、そして綺麗な逆回転の球がストレートだが、三橋はそうではないため球が落ちないでホップしているように感じるとかいう技術的な面。
その3種のファクターのバランスが上手く取れている、それが各所で絶賛されている基盤になっているんじゃないかな。
逆境ナインのようにその感情論のみで引っ張っていく野球漫画も私は好きです。でもそれが説明がともなっていなくてトンデモ作品だ!と感じる方もいることだって事実です。だからこそバランスがとれている今作が万人ウケして「絶対に面白い高校野球漫画。」といえるんだろうな。そいでそういう野球漫画が今まで稀有だったため、話題にもなっているんだろうと。
それでその上「なぜ?なぜなら」っていう図式で分かりやすく説明できてる点、しっかり読ませて分かりやすい、その部分が野球が分からない人も楽しめるんだろうな。
ウサギ博士の夢でも語られているように

「この状況でなぜキャッチャーがフォークを要求するのか(対叶)」とか、もっと前の段階で言えば「打者が外のカーブを引っ張ることになぜ驚くのか(対織田・三橋)」とか「背中のしわで盗塁するかしないかを判断し、ランナーに告げるのはなぜか(対桐青の田島)」とかは無視して読み進めるのかなぁ、と考えてしまうんですよね。

というような野球を知っている人へのサービス的なマニアック描写も必見ですな。私なんか少年野球時代に外の球は合わせて流すって教えられましたもんなぁ。
球漫画的以外に見ても秀逸なことが多いです。
まず、キャラ立ち。正直ひぐちアサ氏のキャラクターの描き分けは髪型だけ感が結構強いです。
だけどそんなことより何より、キャラクターの個性が強くて「描き分け」ができていなくても「書き分け」ができていると思うのです。
外見、内面、総合的なこととして違いが生まれ、それが一人ひとりの個性として生かされてると思うのです、たとえば田島、ノーテンキな天才キャラ、だけど体躯がない。天才だけど弱点があるキャラ、まぁ良くありそうなキャラですが、それが他のキャラに上手くカラんでいくんです。三橋を持ち前のノーテンキさで勇気付けたり、その圧倒的な才能で花井を劣等感たっぷりのキャラにしたてたり。
みんなキャラが立っているんですが、それが生き生きと動いて、いろいろな連鎖を紡いでいく。これぞ人間ドラマだ!って感じ。
そうやって各キャラが生き生きとして紙面で踊っていることが二次創作的な腐女子的な読み方などの意欲を掻き立てる一因でもあるんだろうなぁ。
ひぐちアサ氏本人もこう語ってますし。(NO COMIC NO LIFE

物語を作らない人は、キャラは描き手の一部分だと思うでしょうが、描き手にしてみたら、自分以外の人間を観察して描いているといったほうが感覚的には近いんですよ。で、以前は、まず物語りありきな作り方をしていまして、それでもなかなか「うん」と言わないキャラがいたりして、だけどなるべく物語に沿わせる方向で動かしていくというカンジだったんですが、今回は、かなり太い流れが自分の中にあって、そこからはみ出さない程度なら、好きに動いていいよ、というふうに作っていますよ。どういったらさみしい妄想人間みたいじゃなくなりますかね(笑)? いや、マンガ描きなんて本来そんなもんだからこれでいいのか。はははは。まあとにかく、勝敗を始めとして、これから彼らがどうなっていくのかは、私にもわかりません。彼らが甲子園に行けるよう、また、このマンガが打ち切りを食らわないよう、皆さん、応援お願いします(笑)。


前述の阿部を筆頭にそれぞれが成長しているっていう様を描いているコトも凄い。三橋にしろ花井にしろ香具山にしろ皆が成長している。これからだって皆成長していくと思う。香具山を挙げたようにそれは味方だけじゃない。敵だってそうだと思う、榛名が何かの要因で80球制限を破るのか。など、そういう様々な期待感にも包まれています。しっかりエンターテインメントしてるけどやっぱり高校野球なんだよ。
ライバルの登場、近づく試合、大きな期待を乗せて。
早く試合はじまんねぇかなぁ。(単行本派です。)


追記:
今週号のスピリッツのラストイニングで聖母学院の監督が「ピッチャーは勝利をするための道具にすぎない」というようなニュアンスの発言をしていました。
ようは高校の試合の間持てばあとは壊れようが何しようがいいんだってことです。
実際現行の高校野球の試合。殊に甲子園の場合決勝が近づくにつれ試合間隔は狭まってきます、それはピッチャーに負担をかけて「甲子園は肩を壊す場所、プロに行きたいなら優勝するな」とも言われています。1枚看板のチームはそりゃピッチャー交代するわけにはいきませんよね。それで負けたらエースはやるせないですもん。そういう現行の制度はどうにかしたほうがいいと思うのも事実なのですが、今回それを見て思ったのはおお振りの榛名との対比です。
80球という球数制限を設けている榛名、勝利のためなら選手を酷使する監督。
もちろん監督だけではなく選手たちだって眼前の勝利、今の一瞬の輝きにすべてを掛けていて、あとでどうなったっていい、今、今がすべてなんだっていう気持ちでやっていてそれで悔いはないかもしれません。
でも榛名みたいな将来を見据えた選手がいることも悪くないでしょう。もちろんそれが自己中心的でチームには向かないかもしれませんけど。
だからそういう葛藤の部分をどう料理してくれるか、「おお振り」「ラストイニング」ともに注目の野球漫画ですが、楽しみです。
それにしてもこの二つの漫画見てると面白いよな、鳩ヶ谷は「ピッチャーはプラス思考、キャッチャーはマイナス思考だから±でバッテリー」って言ってるけど、三橋はマイナス思考、阿部はプラス思考だもんなぁ。